書いてるうちに長くなって後編に突入しています(笑)
今回は前回、前々回の前置きを前提に、一番「使える」方法いっぱいのはず。
- 基本は模倣「マネっこ」から
- 「トライアル」とは
- トライアルの例:「開けて」を教えました
- 少しの不便さ
- わからないフリ
- ちょっと押してちょっと引く、のダンス
- 上手く行かない時は
- 楽しい親子関係を崩さないバランス
基本は模倣「マネっこ」から
言葉を覚えていく基本は模倣です。
聞いた言葉を真似しようとして口を動かして音を出す、ということの練習を繰り返して発音がだんだんと本物に近くなっていきます。
始めは聞いたお手本の音と自分の実際出している音の違いがわからず、音がずれていることが多いそうで、これは年齢が進んで練習を重ねると改善してくる、と私の言語療法士は言っていました。
なので、始めから発音を無理に直す必要はなさそうです。
中編にも書きましたが、初期段階では音を繰り返す言葉「ママ」「ばあば」などが言いやすく、その後に違う子音の組み合わせを言えるようになることがほとんどです。
なので、中編で設定した目標に基づいて子供の好きな物・興味のある物の名前の中から簡単なものを練習しはじめるのがいいと思います。
子供が言葉を話し出す頃というのは、言葉だけでなく色んな模倣をし始める頃です。
身振り手振り、ダンス、体操、歩き方、遊び方、お絵かきなど、とにかくいっぱいの「マネ」をさせてみてください。
前回も書きましたが、マネをするためには「人や物に注目する」スキルが必要なので、共同注視ができていないお子さんはそこの部分も練習する必要があります。
子供がマネ・模倣を楽しんでするようになると、言葉だけでなく認知能力も飛躍的に伸びます。
マネはすべての学習の基本、と言われるのはこのあたりですね。
「トライアル」とは
さて、では実際に「練習」ってどうやるのでしょう。
ここは少し応用行動療法(ABA)のやり方を借りて説明します。
というのも、私は応用行動分析士の資格も持っていて、この辺りが庭(専門分野)なので、これで説明するのが一番しっくりくるのです。
(ちなみにクリミナルマインドが好きなので本当は自分を行動分析官と言いたいところですが、この辺りはまた今度😅)
「トライアル」というのは、言語練習をする際の流れをひとまとまりにしたものです。
それは
**************
1.きっかけ・働きかけ
2.行動(発音)
3.結果
**************
から成り立っています。
これだけではよくわからないと思うので、もう少し踏み込んで説明します。
1のきっかけ・働きかけというのは、療育者(ここでは親)が行うものです。
言わせたい言葉を引き出すきっかけをつくったり、子供が言葉を言うように働きかけます。
具体的には好きな物を見せる、絵本や写真を見て好きそうな物を指さす、おやつを手に持つ、遊びの中でおもちゃを手に持つ、見えるけど触れない場所に好きなおもちゃを置く、などです。
つまり、子供に「今言葉を言うタイミングだよ」というのを教えるのです。
そしてその時に子供がマネをできるように言葉のお手本を言います。(このお手本、だんだん薄くしていきます)。0
療育の現場では、初期段階ではけっこうハッキリときっかけを提示します。子供が好きなおもちゃを目の高さに掲げて「じゃーん」という効果音が聞こえて来そうなほど。
2の行動は、子供の行動です。
今回は言葉を教えるので、行動というのは言葉を発音するという行動です。
子供が「言葉を言う」というのが私たちがしてほしい行動ですが、もちろんするときとしないときがあります。
3は結果です。これはまた療育者(親)が行うものです。
2の子供の行動を基にして結果を起こします。1できっかけを作ったものを手渡す、褒める、本を読み進める、何もしない、など色んなパターンがあります。
なぜこのステップが必要なのかというと、行動療法の基礎となっている行動・学習理論において、「人は行動していい結果が得られるとその行動を繰り返す傾向がある」というものがあるからです。
子供に言葉を教える際、子供が言葉を発音していい結果が得られると、次の機会にその子はまた言葉を言う可能性が高まるのです。
トライアルの例:「開けて」を教えました
私の娘をまた例にしてトライアルを見ていきましょう。
「開けて」という言葉がとても便利なので教えることにしました。
透明の蓋つき容器を用意します。子供が自分で開けられない蓋がいいです。
そこに好きなお菓子一個とか、好きなおもちゃ一個とか、パズルのピースを一個とか入れておきます。
それが私のきっかけ(1)への土台作りです。
中身が欲しい娘は私の所へ容器を持って来て手渡します。
もちろん、言葉を使うのに慣れていない娘は渡すだけでおしまいです。
でもここで開けてしまうと、せっかく作った言葉のきっかけの土台が無駄になってしまうので開けません。
容器を持って「あーけーて」とハッキリ言います。これが直接のきっかけ(1)です。娘に今言葉を言うタイミングだよ、とキューを出します。
始めた頃は箱を私の方に押したりするだけでしたが、しばらくして「あ、ん」と娘なりに頑張って私の言葉「あけて」のマネをしてくるようになりました。これが娘の行動(2)です。
娘がマネをしたらすぐ、「あけて、ねー。わかったよー!」と言って蓋を開けてあげます。これが私が与える結果(3)です。
そして娘は中身を楽しみます。
日常の中で「開けて」を言わせるタイミングって結構多いと思います。容器だけでなくドアだったり、窓だったり、戸棚だったり、冷蔵庫だったり。
その度に上記のようなトライアルを繰り返しました。
今では私がはっきりときっかけを作らなくても自然なタイミングで色んなものをあけてと自ら頼んでくるようになっています。
ちなみにまだ発音は「あ、ん」です。「あけて」とハッキリ言えるようになるのにはもう少し時間がかかると思います。
このようなトライアルを色んなきっかけを作って色んな言葉で行うことで子供は言葉を獲得していきます。
ちなみに私が今まで娘に教えた言葉はこんな感じです:
開けて りんご 入れて ぶどう 電話 丸 リモコン
もっと バナナ こっち ごはん みず 葉っぱ シャボン玉
抱っこ 靴 来て 置いて せっけん 石 お絵かき 砂
もちろん全部、完全に言えるわけではなくまだまだ毎日練習中です。
トライアルの流れや練習の仕方など、少しは説明できたでしょうか。
ここからはこの言語練習をやっていく上での成功率を上げる方法やアドバイスなどをまとめます。
少しの不便さ
きっかけを作るうえで大事なことは、意識的に「少しの不便さ」を子供に体験させることです。
少しの不便さを具体的に言うと、開かない箱、開かないドア、もらえないお菓子、つけてもらえないテレビ、揃わないパズルピース、色の抜けたクレヨン、などなど。
私たちは親なので、子供が今何を求めているのか言葉を使わなくてもだいたいわかりますよね。
でもそこで子供が言葉を使うことなく欲求・要求を満たしてしまったら子供は言葉を使う機会がなくなってしまいます。
そこで、日常の中でなるべく上記のような「少しの不便さ」を作ってあげます。
あくまで「すこし」です。
子供にとってあまりに難しかったり、不便な状況を長引かせるとフラストレーションがたまってしまうので、少しだけです。
言葉を使うだけで自分の良いたいこと、欲しいものが伝わって問題解決ができる、という状況を作ること、それを子供に体験させることが大事です。
わからないフリ
少しの不便さを提供するのと同時に、大人は周りの人も含め「わからないフリ」をしてもらうのが大切です。
子供がお菓子の袋を自分のところに持ってきたらお菓子を食べたいんだろうな、袋を開けて欲しいんだろうな、というのはわかりますよね。
でもそこであえて、わからないフリです。
「なあに?」「何が欲しいの?」「どうしたいの?」など聞いて子供に「開けて」「お菓子」などと言わせるきっかけを作ります。
それで言わなければ踏み込んで「おーかーし」「ちょーだい」などと模倣から言葉を引き出します。
言葉を教え始めたらもう一人の親、おじいちゃん、おばあちゃん、親戚、先生など色んな人にわからないフリをしてもらいましょう。
ちょっと押してちょっと引く、のダンス
言葉を教え始めて一番最初は子供は少しグズったり泣いたり怒ったりするかもしれません。
今まで言葉を使わなくても物をもらえていたり、気持ちを伝えられていたのに、わからないフリをされたり、少し不便を味わったりするからです。
療育現場では5歳‐10歳やもっと年齢の高いお子さんを担当することも多いです。それまで周りに言葉を使うことなく要求を叶えてもらっていたお子さんは、この始めのフラストレーションが大きくなる傾向にあります。
このフラストレーションを上手く話すモチベーションに変えて言葉を教えていくのが大事ですが、それは療育者(親がする場合は親が)子供の反応を観察するのが大切です。
あまりにわからないフリを長引かせたり、難しい言葉を言わせようとしすぎたり、発音を矯正しようとするとモチベーションよりフラストレーションの方が高くなり、子供は話すのを楽しいと思えなくなってしまい、声を出すのをやめてしまいます。
それは、押しすぎ。
逆に、欲しい物や要求を言葉を使わずにすべて叶えて子供が言葉を使うきっかけを与えなければ、言葉は伸びません。
これは、引きすぎ。
少しだけの時間不便な状況を作り、それに「言葉」という打開する方法を示してあげるというのが療育者の役割です。
そして言葉を使ったときに素敵なことが起きる、たとえば親と心が通じ合ったり、同じものを見て楽しんだり、美味しいお菓子が手に入ったりするという結果がついてくることによって、また言葉を使おう、と思ってもらうのです。
子供を注意深く観察し、ときには押して、ときには引いて、子供とちょうどいいダンスを踊るのが大事になります。
これは親だけでなく、プロの療育者にも言えることです。言語療法士や行動療法士にもたまに押しすぎたり、厳しすぎる人がいます。実際、昔はそのほうが子供が伸びると考えられていました(いわゆる根拠のないスパルタです)。
なので、ちょうどいいバランスをもって取り組んでいきましょう。
前回書いたように、根本はあくまで子供が言葉を使うのを楽しいと思うことで、モチベーションを続かせることです。
上手く行かない時は
きっかけを作ったまではいいけれど、それに子供が何も言おうとしなかったり、物を見てもいなかったりしたらどのような結果を与えればいいのでしょうか。
答えは「何もしない + リセット」です。
「違うよ」と言ったり、叱ったり怒ったりする必要はありません。
そのままにします。
そして、もう一度同じきっかけを与えたりもう一歩踏み込んだきっかけ作りをします。
すなわち、きっかけをリセットするのです。
療育は上手く行くときもあれば、中々進まないこともあります。
こちらがいくら上手にきっかけを作っても、目標がその子に合っていたとしても、言いたくない、話したくない、という日もあるでしょう。
大人もそうですよね。
料理を作る方法は知ってるし過去に何度もやっているけど、今日もそれをやれと言われて嫌な日もあります。
なので、調子が悪い日は無理しないで。
また次の機会を待ちましょう。
では、言う気持ちはあるけど正しい言葉になっていない場合はどうすればいいでしょうか。
答えは「それでもいい結果を与える」です。
イヌ、と言って欲しくて子供が言ったのが「ちー」だった時。
「違う、い・ぬ だよ」
など、直す必要はありません。
上記しましたが、話し始める時の子供は自分が聞いた音と自分が出している音がどのくらい似ているのか、違うのかがわかっていません。
なので、あまりに修正に時間をかけていい結果を与えないでいると言葉を使うというモチベーションまで下げてしまいます。
なので「そうだね、『いぬ』だね~、わんわん!」
などと、いい結果を与えながら正しい発音を聞かせてみせるくらいでいいと思います。
子供はそうして話したことに対しての対価も得られるし、正しい発音を耳にする機会も増えるからです。
楽しい親子関係を崩さないバランス
最後に。
前の項目でも書いてきましたが、親が療育をする際、とくに真面目な方や子供の言葉が遅いことに対する不安の強い方は、一生懸命になるあまり子供を追い詰めてしまうことがあります。
療育の現場でも何度も見てきました。
言語療法や行動療法、またはそれに基づく療育でも最近は親に対するトレーニング(ペアレント・トレーニング)がさかんに行われていますし、親が療育者としての役割を担うことも多くなってきました。
これは個人の考えになってしまいますが、たとえ親が家庭で療育を行う場合でも、親は療育者である前に、親です。
合わなかったら担当を代えられる療育者と違い、親は自分しかいません。
一度関係を壊してしまうと修正するのが難しいので、子供と一緒に楽しく家庭療育をして行って欲しいな、と思います。
長くお付き合いいただきありがとうございました。
まだまだ書ききれないテクニックや手法が山ほどあります。
いつか何かの形でまた書ければいいな。