こんにちは。大変ご無沙汰してます。仕事を3つ掛け持っていたこともあり中々座って何かを書くという時間が取れずにいました。
大学院講師の仕事が一区切りついたので、今日はリクエストの多かったトイレトレーニングについて書いてみたいと思います。
私の資格の一つはBCBA(Board Certified Behavior Analyst)というのですが、日本語でいう行動分析士になります。人や動物に新しい行動を教えたり身に着けさせたり、また困った行動を減らしていくという分野の専門資格です。
行動分析(Applied Behavior Analysis: ABA)の視点からトイトレ、考えてみましょう。
育児本や育児サイトなどのトイトレの部分で「無理のない範囲でオムツを変えるタイミングがあれば、トイレに座らせてみましょう」「子供はシールが好きなので、できたらシールをあげましょう」「あとはお子さんのペースに合わせて、楽しくすすめましょう」などのアドバイスなどを見かけたことはありますか?
これらを否定する意図はないですが、これだけのアドバイスでよくトイトレが成功ができるなと思っていました。私の知識と経験はほとんどが発達障害と診断されたお子さんたちで培われたものですが、最近自分の娘にもやってみてやっぱりこのやり方は定型発達のお子さんたちでもわかりやすいのでは、と思いました。
なので、育児サイトよりも具体的にやり方を書けたらいいなと思います。
- 行動分析の基本の考え方
- 新しい行動を教える
- 行動目標を決める
- トイトレを始める条件
- トイトレを始めるタイミング
- トイトレに向けて用意するもの
- トイトレ初日の朝
- 行動目標1:トイレに座る
- 失敗(お漏らし)の対処
- トイレが怖い場合
行動分析の基本の考え方
トイトレの内容にガッツリ入る前に、まずは行動分析の基本的考えを書いておきます。これを理解すると次からの項目も、実践していく際にもわかりやすいと思うからです。
行動のABCというのを聞いたり読んだりしたことはあるでしょうか。
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AはAntecedentの略で直訳は先行刺激になります。行動の前に起こること、環境要因や人から与えられる「きっかけ」です。
BはBehaviorの略で、「行動」そのものです。
CはConsequenceの略で、その行動によって起こる「結果」です。
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行動分析では、人間のすべての行動がABCの順で起こり成り立っていると考えます。
基本的に他人の行動は自分には変えることができません。その人の手足を掴んで無理やり行動を取らせることはできますが、長くは続きません。
そこで、ABCサンドイッチの真ん中にある「行動」を変えるには、Aのきっかけを変えたりCの結果を変えたり、またはAとCを両方変えればいい、と考えます。
これがトイトレとどう関連してくるかというと、「トイレにいく」や「トイレにすわる」など、すべてそれをやったことのない子供に取っては新しい行動で、今まで「オムツでおしっこをする」という行動を「トイレでする」に変えなければいけないからです。つまり、それらがBの行動。私たちが準備をするのはAのきっかけを作ることと、Cの結果を与えることです。
新しい行動を教える
行動のABCがわかったところで、新しい行動を教える時に親やセラピストがしなければいけないのはAのきっかけ作りとCの結果を与えること、と書きました。
Aを作るには色々なやり方があります。きっかけは視覚的だったり、声かけや音(聴覚的)だったりします。子供さんの性格や好みや家庭の考え方に応じて変えられます。それぞれの場面で具体例を挙げていきたいと思います。
Cの結果は大きく分けると「褒美」と「罰」のどちらかになります。ですが、現代のABAや幼い子にトイトレをする際に罰を使うことはほとんどないので、この場合は褒美ということになります。
ご褒美というと抵抗がある方がいるかもしれません。毎回トイレに行く度に違うご褒美を用意しなくてはいけないのか、と思う方もいるでしょう。でもその子にとって喜べるものなら何でもいいのです。誉め言葉や頑張ったことを認める言葉、抱きしめること、キスなど社会的な褒美もあるし、遊ぶ時間を増やすなど、毎回「モノ」でなくてもOKです。ただし、子供の反応を見てその子が喜ぶものでなくてはいけません。こちらが良かろうと思ってあげてもその子が喜ばなければ意味がありません。なので、普段から子供を観察してその子の「ツボ」を理解しておくとトイトレはスムーズにすすみます。
行動目標を決める
トイトレを進めていくうえで大事なのが行動目標を決めることです。つまり、子供に具体的に何をしてほしいのか、です。トイトレには細かくみて色んな要素があるので初めてする時は何を目標にするのかわかりにくい時がありますね。新しいことなので一つ一つ、少しずつ進んでいくことが大事です。下の例を見てください。
1. トイレ(おまる)に座る
2. トイレ(おまる)でおしっこする
3. 自分からトイレ(おまる)に座る
4. 自分からトイレ(おまる)に座っておしっこする
5. (おしっこが出そうと親に言える)
これはあくまで大まかな行動目標の流れで、この間にももっとスモールステップで色々な行動を目標にできます。ここで大事なのは段階を踏むことと、焦らずに一つ一つをこなしていくこと。
この他にも「自分でパンツを脱ぐ・履くができる」や「自分でお尻が拭ける」「トイレの後で手が洗える」などの行動目標がありますが、私はこれらを「周辺目標」と呼んでいて、できてもできなくてもトイトレの大きな流れには影響しない部分です。今回はあくまで「トイレで一貫しておしっこができるようになる」ということを目標に書いていきます。周辺目標は一緒に教えることもできますが、子供によってはフォーカスがブレてしまい達成が遅くなるので、大きな目標が達成してから教えることを私はすすめています。
上記を参考にして、今自分のお子さんの行動目標は何なのかを考えてみてください。
トイトレを始める条件
トイトレを始める条件は他のサイトや本でも載っているとおりですが、最低限は以下です。
- トイレやおまるまで歩ける、座れるなどの基本的な運動能力
- おしっこの出る間隔がある程度(1時間以上を目安)開いている
- こちらの言うこと(簡単な指示など)をある程度理解している
コミュニケーションに関しては、育児本によっては簡単な会話ができるとか、返事や受け答えができるとかを条件として挙げているところもありますが、私の経験上、上記の「こちらの言うこと(簡単な指示など)をある程度理解している」さえ満たしていれば始められます。なぜかというと、発達障害などで発語がないお子さんにでもトイトレはできるし、成功もするからです。
トイトレを始めるタイミング
トイトレを始めるということは結構大変なことです。特に始めの1、2週間は常に子供のトイレのことを考えていたりそれに合わせてこちらが行動することになります。なので、働いていらっしゃる親御さんにはなるべく長い連休を利用して始めることや時間に余裕のある時に始めることをおススメします。
今生活時間に全く余裕がない、や、ストレスの多い生活を送っているという場合は1,2か月伸ばしたりしていいタイミングを図る方がいいと思います。でないと、トイトレがさらにストレスになってしまい親御さんにとっても子供にとってもいい結果になりません。
そしてこれはみなさんご存じだと思いますが、比較的暖かい季節を選んだ方がスムーズにすすみます。
トイトレに向けて用意するもの
行動分析をもとにトイトレを始める前に用意するものをまとめます。
- トイレに付ける補助便座と台、もしくはおまる、または両方
- 基本的にはどちらかでいいのですが、短期間で終わらせたいときはおまるを先に買うことをおススメします。最終的にはトイレですることになると思いますので、いずれは補助便座が必要になります。
- おまるを使う場合は、子供が普段一番よくいる場所に置く事をおすすめします。
- パンツ(トレーニング用ではなく普通のでいいです)10枚ほど
- 始めたばかりは失敗の連続です。手軽に洗えて渇きやすいものの方が便利です。どうしても床に失敗されるのを抑えたいという場合は吸収層のあるトレーニングパンツでもいいと思います。
- 床をきれいにするもの(ペーパータオルや除菌スプレーなど)
- ソファ・ベッドなどに子供が座る場合は防水シート
- タイマー(キッチンタイマー、デジタルタイマーなど)
- スマホに付いているものでも良いですが、できればトイトレ専用のがあると楽です。100均のもので十分です。
- ご褒美の候補になるものを2-3個(トイレ用の特別な物)
- あとは、たくさんの忍耐力と心の余裕をご準備ください😊
トイトレ初日の朝
トイトレの具体的なスケジュールはご家庭によっても変えることができます。が、外出や来客など用事のない週末、できれば連休などで3-4日は家に籠れるタイミングがいいです。そしてできれば家事も最低限にして子供から目を離す時間が短いほうが成功が早いです。
トイトレを開始する日の朝、起きてご飯を食べたらオムツをはずします。で、「今日からおしっこはトイレでしよう」と子供に話します。
で、普通のパンツを履かせます。
暖かい季節に始める場合はお家の中だけですので、上は丈が短めのシャツ(長いとトイレの時に濡れてしまう場合があるので)とパンツだけというスタイルです。これで一日過ごします。
初めの何日かはとにかくお漏らしとの格闘になると思うので「朝ごはんから夕ご飯まで」などと取り組む時間を区切ると楽だと思います。
行動目標1:トイレに座る
では、具体的な今の行動目標を基に書いていきますので、今のご自分のお子さんに合った行動目標の場所から読み始めてください。
トイトレを初めてやる、という方はほとんど「トイレに座る」ところからのスタートになると思います。
上記しましたが、子供にとってはこれだけでも大きな変化です。今までやったことがないこと、見たことないものだったらなおさらです。
子供がトイレを怖がらずに座ってくれる場合を書いていきますが、中には座ること自体が怖いと思ってしまうお子さんもいます。その場合は下記の「トイレが怖い場合」を参照してください。
さて、トイレに座るという行動目標ですが、ここでの一番の目的は「トイレに座るということが生活習慣の一部になる」ことです。つまり、トイレは必ず一日に何度も座るものだということを習慣づけていきます。それを達成するには何度も座らせる以外にありません。
私がおススメするのは大体30分‐1時間に1度トイレやおまるに座らせることです。30分より短いと私たち親が何もできなくなってしまうし、1時間以上空くと中々習慣になり辛い上にトイレでおしっこが成功する確率も下がるからです。
ここで、この行動のABCを見てみましょう。
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A(きっかけ):トイレタイマーが鳴る
B(行動):トイレ(おまる)に座る
C(結果):ご褒美(誉め言葉や具体的に渡せるもの)
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Aのきっかけとしてトイレタイマーを30分から1時間の間でセットして、タイマーが鳴ったら「トイレの時間だよー」と声をかけて、できれば子供にタイマーを止めてもらいます。で、トイレ(おまる)に導いて座れたら褒め、できたらそこで3分ほど座ってもらいます。この時に座るのを拒否したりすぐに立ち上がってしまう場合は座ってる時だけ読める絵本、この時だけ見せる動画、この時だけ遊べるおもちゃをトイレにおいておくといいと思います。
3分ほど座れたら頑張って座れたことを褒めて、パンツを履かせて解放し、また規定の時間のトイレタイマーをかけます。これを一日繰り返します。
30分に1回はとても頻繁です。なので上記したように親はほとんど他のことができなくなります。できれば夫婦やパートナーがいる場合は予定を入れず家事を最低限にし、二人で交代でやったほうが負担が軽くなります。
失敗(お漏らし)の対処
トイトレには失敗がつきものです。特に初めの3-4日は頻繁な失敗との戦いになるのが普通です。お漏らしをすることもトイトレ成功によって不可欠なので、失敗とはいえ必要な工程です。子供にとっては今まで意識せずにオムツの中でしていたのが、パンツになることによって急に違う感覚になるのです。股や足が濡れる感覚、目で見える形で出て来るおしっこによって「今自分がおしっこをしてる」という感覚を学びます。
失敗してしまった時は怒ったり叱ったりせず、「おしっこはトイレ(おまる)でね」とだけ淡々と声をかけてすぐトイレへ連れて行き、座らせます。この場合も3分で大丈夫です。新しいパンツを履いたらタイマーを規定の時間にかけなおします。
育児本やサイトによっては子供にお漏らしのあとの掃除をさせたほうがいいと書いてあるものもありますが、私は個人的にどちらでもいいと思います。何故かというと掃除をさせることが罰みたいになってしまうことがあり、子供がトイトレをストレスに感じてしまうことがあるからです。子供の反応を見ながら、嫌がったら無理強いはしなくていいと思います。
トイレが怖い場合
子供によってはトイレやおまるに座るのを嫌がることがあります。これには色んな理由がありますが、一般的なのは高い位置に座ること(落ちそうで怖い)、トイレやおまるの中心が空洞なこと(吸い込まれそうで怖い、暗いので怖い)、シートが冷たい、流す音が大きくて怖いなどです。
理想としてはトイトレを始める何か月か前から親が用を足すところを見せ、子供に流してもらい、その他の本やビデオなどでトイレという場所やそこで起こることに慣らしておくのがいいです。
どうしても恐怖が強い子供にはトイレに無理に座らせることをせず、始めはその周りで遊んだり、子供の好きなキャラクター、色、おもちゃなどで装飾して子供が徐々に慣れて座ってくれるまで根気よく環境を整えるのがいいと思います。流す音が嫌な場合は子供がいる前では流さないなどの対策をします。
実際トイレに座らせる時も初めは5秒座れたら褒め、その次は10秒、次は20秒、とだんだんハードルを上げていきながら子供が慣れるのを待ちます。トイレに座ったときにもらえるご褒美も強力な物を用意すると達成しやすいと思います。
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ここまで読んでいただいてありがとうございます。
後編へ続きます!